金権政治と利権政治の違い

日本ではほぼ同一の意味を持つ金権政治と利権政治。しかし、根本的に両者は違うものだと私は考えています。ざっくり言えば、金権政治はOK、利権政治はNG、ということです。
アメリカの政治には、よくロビィストという存在が出てきますね。圧力団体(この表現がそもそも間違いと思うが)をバックにした議員や、あるいは議員に働きかける活動家のこと、とここでは定義することにしますが、これはアメリカが金権政治を行っていることの証でもあります。日本との関係で言うと、牛肉輸入騒動が例ですね。ある業種を背景にした圧力団体が、お抱えの議員を使って、対日制裁の法案を作って通そうとする。
これ、日本人から見ると「汚ねぇ」と思うところかと思います。
しかし、私はこれが本来、政治の正しい姿だと思っています。
要するに、ある団体が議員を金銭で雇っているだけのことでしょう。そして、自分たちに有利になるように法律を作ってくれと。自分たちに有利になるような法案を、みんなに説得して多数になるようにしろ。そのための活動資金は、我々が出す。
労働組合だってそうでしょう。労働者に有利になるように法律を作れと。そのために、自分たちが活動資金を供出する議員を立てるというわけです。労働者が労組を通じてやることは正当化されて、営利団体が同じことをやろうとすると批判されるのは、おかしい。そもそも労組だって、労働者にとっての営利団体なんですから。
で、金権政治は何がいいかというと、渡部昇一先生に言わせると、金権政治こそ平和をもたらすからだそうです。金権政治を支える営利団体は、戦争なんか起こされちゃ商売にならんわけです。特に経済がグローバル化した現在では、戦争が起こると本当に商売にならない。金権政治が正しく機能すれば、例え金権の元が兵器産業であっても、戦争よりは平和を選択するからです(兵器産業にとっては兵器は使われずに更新されるのがベスト。性能優劣を問われないまま、バージョンアップを繰り返せるから)。
これに対して、利権政治は方向が違います。金権政治の金の流れは、営利団体→議員、というものでした。これに対し、利権政治は議員→ある特定の団体、という方向に金が流れる仕組みになっています。議員が国家のお金を自分たちの支持者に送り出すという形になっているわけですね。つまり、これは国家が必要以上に金を集めている実情を示しているわけです。ここが大事なんですね。
で、郵政事業というのは、巨大な利権、つまり議員が自分たちに引き込むことができる大きな資金だったわけです。国家予算規模の額でありながら、予算審議をかけず、郵政事業(旧郵政省、現総務省)の役人のハンコだけで決済できる仕掛けになっていたんですね。役人のハンコがあるから、汚職じゃありません。事業計画を立てるにも、民間業者のように倒産する危険性がありません。何といっても、郵政事業は最終的には国税が担保になってるわけですから。だから、どんどん融資する。で、決済者の役人は異動でどんどん偉くなったり、違う部署に移ったりする。事業が破綻した頃には、役人は引退した後で、責任を取らされることもない(というか、責任者が代替わりする頃までの、やたら長い事業計画にあえてしているとも言える)。これが郵政事業を大きな利権にしてきた理由でもあります。
利権政治では、どうしても議員や公務員の立場が強くなります。当たり前ですね。一般社会でも、お金を出す側と受け取る側で、受け取る側の方が立場が弱いのが相場です。例外があるとすれば、産油国と他の国との関係くらいかと。この構図が続く限り、議員・公務員という官が国民に対して、圧倒的に強い立場に立ち続けることになるわけです。金を持つ議員の立場から見れば、お金の落とし先を変えるぞ、の一言で民からの票を誘導できてしまうわけです。これでは、国民主権も減った暮れもありません。
金権政治ではそうは行きません。圧力団体が金を出す側の立場ですから、役に立たない議員はあっさりクビです。票だけじゃなくて金も出すわけですからね。圧力団体は、国民の中で同じ利益構造を持つ人たちの集まりですから、金権政治の構図なら国民主権が果たされることになります。
郵政民営化というのは、現在の利権政治を金権政治に変える大きなポイントだと私は思っています。逆に、郵政事業は民営化じゃなくて公社であり、構成員が公務員ですから、金権政治をあからさまにできないわけ。これは郵政事業にとってもったいない。民営化して、自由にお金を使える(政治にもお金を出せる)状態にして、郵政事業にとって有利な方向になるような法律を通せる議員を支援すればいいんです。なまじっか国営・公社になっているから、自由な活動ができないわけです(今回の選挙でも郵政関連の選挙違反が出ると思います。それもこれも、郵政公社員が公務員であることが一番の原因)。金権政治を行うためには、自らが民営化会社になればいいんです。これだけの豊富な資金力を持っているんですから、大物議員を雇うことも容易でしょう。私が郵政公社の経営陣なら、このように考えます。
利権政治がなくなって、本当の意味での金権政治がやってきたとき、日本の政治はもっとわかりやすくなると思います。郵政民営化はその第一歩だと私は思っています。