美浜原発事故 -- 正しい見方はどっち?

昨日発生した美浜原発事故。お亡くなりになられた方のご冥福をお祈りいたします。しかし、昨日、これテレビのニュースで見たけど、ひどい報道だね。何時何分に社長が謝罪しただとか、亡くなられたのが関電の社員じゃないと「関電は危ない仕事は下請けにやらせている。こういう姿勢はケシカラン」みたいな感じがありあり。もう、何が何でも関電を悪者にしてやろうという姿勢でしたな。アホかっちゅうねん。
さて、昨日の事故について各紙社説を出しておりますが、何かと政治問題では対立する朝日と産経がまたまた異なる社説を出しております。
朝日「■美浜原発――死者を出した事故の衝撃」
原子力施設での死亡事故は、99年に茨城県東海村のウラン加工工場で起きた臨界、被曝(ひばく)事故に続くものだ。そうした事故があっても日本の原子力関係者は「原発そのものでは大事故は起きない」といっていたが、その信頼も崩れた。これからの原子力の開発にも大きな影響を与えるだろう。」「今回事故を起こしたのは日本の原発のほぼ半分を占める加圧水型炉の一つである。この炉の特徴は、配管が1次系と2次系に分かれており、タービン建屋の配管は2次系で、蒸気には放射能は含まれていない。このため環境中への放射能放出だけは免れたといえる。」「高温高圧の蒸気がタービンを回して発電するタービン建屋の構造は、一般の火力発電所と同じである。原発事故といえば放射能に注目しがちだが、他の炉型や火力発電所にも共通する技術的な弱点があるとすれば、根は深い。」
いかにも原発特有の事故であるかのごとく書いております。それでも最後の引用文に、火力発電所にも同じ構造がある、と書いていますね。朝日にしては優秀です。しかし「他の炉型や火力発電所にも共通する技術的な弱点があるとすれば、根は深い。」は意味不明。同じ弱点があるとすれば、この事故は原発だけの問題ではない、と書くべきであって、そこを「根が深い」と書くことによって、原発だけは特別危険である、という印象を与えようとしています。
一方、産経「■【主張】美浜原発事故 核燃料サイクルは無関係」
「漏れた蒸気は原子炉とは直接関係のない二次系の蒸気だったため、放射能は含まれておらず、建屋内および原発周辺への被曝(ひばく)はなかった。」「異なるのは原子力は原子炉で核分裂を起こし、その際発生する熱で水を蒸気に変えるが、火力の場合は化石燃料をボイラー内で燃やしその熱で水を蒸気に変えタービンを回す。つまり熱源が違うということで今回の美浜原発の事故も、結果は最悪だが原発事故というよりも一般の労災事故と同じといえる。」「ただ、原発の場合は原子炉で核分裂させた熱と接触する一次系の水や蒸気は、濃度の高い放射能を帯びているので、周辺住民の安全をはかるため、漏れた場合は経済産業省原子力安全・保安院や地元自治体に素早く通報する義務がある。」
まず、タイトルからして満点と言っていいでしょう。衝撃だ、と騒ぐよりも、落ち着いて考えよう、という姿勢は、最近のマスコミにしては優秀です。2次系の蒸気なので放射能は含まれていない、高濃度放射能を帯びているのは1次系である、ときちんと説明しています。これに比べると、朝日が「放射能放出だけは免れた」と書いていることが実におかしいことがわかります。2次系配管の事故でも、下手をすると放射能放出があったかのような印象すら与えます。例えば、2次系配管の破損が1次系配管に波及し、危うく1次系配管まで破損するような事態だった、ということなら、朝日の書き方は通用します。しかし、この事故では2次系配管が破損しただけの事故ですから、産経の書き方が正しい。
産経は結びの段落で「しかし、使用済み核燃料を再処理して使う核燃料サイクル論議が盛んな微妙な時期の事故だけに、この事故を利用して世論をサイクル反対に導こうとする学者がいないとも限らない。」と書いています。学者だけじゃないよね、マスコミが一番危険だと思うんですが。
ともかく、日本のインフラは老朽化がかなり進んでいます。新規に高速道路やら新幹線やらを整備するよりも、社会基盤を支えてきて老朽化しつつある設備の点検・補修に予算を投入することを考えるべきときに来てると思います。新しくモノを作るだけが産業じゃなくて、こうした点検・補修も立派な産業です。成熟した社会は、物持ちの良い社会。手直し手直し使っていく。それは伝統工芸品だけじゃなくて、今、手持ちのインフラにも言えることなんじゃないかと思いますよ。