女系は特別な存在

またまた皇位継承ネタです。
天皇家には、天照大神から繋がる家系である、という伝承があります。いわゆる天孫降臨の伝説ですね。アマテラスの孫であるニニギが地上に降臨し、その子孫が日本の統治者となった、というお話。もちろん、天皇家はこの伝承を守ってきた家系です。
記紀や神話が事実かどうか、ということはここでは問題ではない。天皇家がこの神話や記紀の伝承を受け継いできたという事実の方が重い)
さて、ここで気になるのは、天照大神という存在です。ウィキペディアで「アマテラス」を引くと、次のように記述されています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9E%E3%83%86%E3%83%A9%E3%82%B9

アマテラスは、日本神話に登場する神である。現在では一般に女神とされる事が多い。太陽を神格化した神であり、皇室の祖神(皇祖神)とされる。古事記においては天照大御神(あまてらすおおみかみ)、日本書紀においては天照大神と表記される。

ここで興味深いのは、天照大神が「女性」であることです。
ニニギはアマテラスの孫ですから、当然、その父がいます。ニニギの父はあまり有名ではありませんが、アメノオシホミミと言います。男系継承と言われる天皇家において、最初の男系継承者はニニギということになります。つまり、アメノオシホミミは、アマテラスの子ですから、これは女系。ニニギの3代目の男系男子が、天皇家初代とされる神武天皇となります。以後、伝承では男系男子が続いていることになります。
参考リンク:【日本・天皇家http://www9.wind.ne.jp/chihiro-t/royal/Tennoke.htm
なぜ、以後、女系天皇が出ていないのでしょうか?
これを解く鍵が、天照大神が女神である、ということだと私は思います。
天孫降臨のニニギに比べると、アメノオシホミミは無名の存在です。彼の名前は実はもっと長い。マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミと言います。マサカツアカツハヤヒは大まかに言えば「非常に素晴らしい」という美称です。
実は、天皇家において、このアメノオシホミミだけが「女系」なのです。しかもアメノオシホミミまでが、いわば「天空」にいた存在なのです。天皇家は、地上に「降臨」して以降、男系を重ねていきます。つまり、アメノオシホミミは男系継承の起点になっているわけですね。だからこそ、いわば何の業績もないのに長い美称を与えられているのではないでしょうか。
何故、女系天皇が出ないか、というと、アメノオシホミミだけが女系だからでしょう。つまり、女系天皇を作るということは、アメノオシホミミと同格の存在を作るということになります。となると、その前の天皇、すなわち女性天皇天照大神と同格の存在になる、ということになるわけですね。
これが、先祖崇拝・先祖祭祀を継承する立場として、いかにあり得ない話か。
女系天皇とその母である女性天皇は、祖先神と同格になろうとしているわけです。これが祖先への崇拝や祭祀だと考える人はいないでしょう。普通、祖先への祭祀は、祖先に対し感謝し、敬意を示し、頭を垂れることを儀礼化したものです。この中に、祖先と同じ格になろうという発想は出てこないはずです。
だからこそ、これまで天皇家では女系の継承を認めてこなかったのではないでしょうか。女系による継承は、自らを自らの祖先神と同格に持ち上げることを意味するからであり、祖先崇拝のあり方から著しく外れます。これが祖先神の怒りを買うことは、容易に予想できることではありますまいか。
だから、これまでも皇位継承については、直系かどうかは厳しく問うてこなかったのです。直系は優先するけれども、傍系であっても構わない。しかし、女系は認められない。何故なら、女系は「始祖」と「天空」を意味するものであるからなのですね。
我々世代は、すでに神話や記紀の教育を受けていませんから、皇位継承問題も現代の価値観で簡単に判断してしまいます。天皇家は存在することに意味がある、とか、男女平等の社会を天皇家から示してもらえればなおよろしい、などですね。しかし、神話時代からの伝承を考えていくと、女系天皇の存在は、天皇家の先祖祭祀という大きな問題にぶつかるわけです。私たちは、このことをよく理解しておく必要があるんじゃないでしょうか。