若宮という名前の「裸の王様」

私も一会社員でございますので、当たり前のことですが、同業他社の動向は気になります。そのためには、新聞や業界紙、雑誌、論文、特許などをいろいろ調べたりします。これをしないで何らかの報告を上層部に上げることは、まずあり得ません。
ところが朝日新聞という新聞社は、同業の他紙を全く読まないようです。いや、他の新聞もそうかも知れません。ただ、産経新聞だけは他紙をよく読んでいるらしいのは、月に一度、社説検証という記事を作成しているからです。まあ、大朝日の論説委員となると、自分がまるで皇帝のような存在で、他の存在など気にならなくなるものなのかも知れません。しかし、そういう存在のことを、我々は「裸の王様」と、しばしば呼びます。
「拝啓小泉首相殿 米国で靖国を語れますか」
http://www.asahi.com/column/wakamiya/TKY200605290146.html
すみません。まず、細かいことを。
「首相」に対して、「殿」はおかしいと思います。そもそも「殿」って敬称じゃありません。通常、公職の要職にある人に対しては、「閣下」を使うのが、普通ではないでしょうか。小泉首相閣下、ブッシュ大統領閣下、陳総統閣下。殿、は明らかにおかしい。まあ、それはいいです。
さて、何が面白いかというと、ここで「靖国参拝に反対するアメリカ人」として挙げられているのが、なんとただ一人。ヘンリー・ハイド氏のみなんですね。おいおい、と思います。それなら、私はマイケル・グリーン氏とか、先日のケビン・ドーク氏、ブッシュ大統領など、靖国参拝を政治・外交問題にするなかれ、と主張される方を複数知っております。また、朝日新聞にお勤めだと理解し難いのかも知れませんが、アメリカは言論の自由が認められた国で、対日問題についても対立する意見を堂々と主張できる国なのです。アメリカの中で意見対立があったって別に構いません。

ハイドさんは太平洋戦争にも従軍した共和党の大長老。日米開戦を決めた東条英機首相らをまつる靖国神社への不信から、昨秋は首相参拝に異を唱える書簡を加藤良三駐米大使に送りました。米議会といえば、真珠湾攻撃のあとルーズベルト大統領が日本軍国主義との戦いを宣言した場所だけに、これはいかんと思ったらしい。

さて、この文章は見事に朝日クオリティを示しています。たかだか一長老議員のメンツの方が信教の自由よりも優越する、という考えに同意するということなんです。そもそも、このハイド氏の発言は、アメリカではほとんどニュースになっていない。まあ、ハイド氏なら言いかねんわな、という扱いでしょう。ちなみに、アメリカ軍総司令官だったマッカーサー元帥は、議会で何と証言されましたかな?

ところが、です。首相は就任以来、頑固に靖国参拝も繰り返してきましたね。そのことが「民主主義の日本」のアピールではなく、「かつての軍国主義」を擁護する行為と映る。そこに首相の分かりにくさがあるのです。

そう見る人とそう見ない人がいる。ただそれだけのことじゃないですか。そう見る人の見解で、すべてを統一しようとする行為こそ、民主主義の否定ですけど。しかも、小泉首相は何度も、そういう見方を否定していたじゃないですか。これこそ、話せばわかる、という普段の朝日新聞の主張がウソである典型的な例ですね。朝日新聞靖国参拝の理由を、どのように説明してもわからないのですから。

靖国神社が首相の考える兵士の慰霊の場にとどまらず、過去のアジア侵略や太平洋戦争を正当化する思想的支柱となっているからにほかありません。参拝支持の人々からは東京裁判を否定する声もしきりに上がるだけに、外国が気にするのも当然でしょう。

若宮さん、パール判事を知ってますか? SF講和条約締結の際、東京裁判に同意するわけではない、と宣言した国があったことを知っていますか? また、東京裁判の事後処理を決定した唯一の国際条約であるSF講和条約の締結国に、中華民国中華人民共和国も、南北朝鮮も入っていないことはご存知ですか? また、何のために国際条約が存在するのかご存知ですか? A級戦犯合祀後に、大平首相は3度参拝し、その後、訪シして、シナ共産党政府から熱烈な歓迎を受けたことをご存知ですか?
理系の窓際族会社員がネットで調べた程度のことを、まさか朝日新聞論説主幹ともあろう、貴方が知らぬわけではありますまい。貴方の言説に都合の悪い事実を無視して、このような論説を書くというのは、一種の詐欺行為ではないのですか?

アジアで日本と中国の力が拮抗(きっこう)する時代を迎えたのは、史上初めてだと語られます。4月に訪米した中国の胡錦涛(フー・チンタオ)主席に対し、ブッシュさんは中国を「ステークホルダー」(利益共有者)と呼びましたが、なお警戒すべき一党独裁国には違いない。日本には民主主義の国として、アジアで踏ん張ってほしいと願っているのでしょう。

いいえ、ブッシュ大統領はそんなことは言っていません。ブッシュ大統領は、シナ共産党政府を指して、「responsible stakeholder」と言ったのです。「責任ある」利害共有者です。これからは、米シ関係の問題については、シナ共産党政府にも相応の責任を取ってもらう、という宣言ですよ。何故、意図的に「責任ある」の部分を落とすのですか? 意味が180度変わってきますが?

そうそう、欧米のある駐日大使がこんな風に言っていました。
「中国に問題があるのはもとより当然。日本は民主主義の仲間だからこそ気になるのです。日本を応援したいのに、靖国問題でどんどん応援しにくくなるのは困ったことだ」

これは聞き捨てなりませんな。一体、どこの駐日大使が仰ったのか、明らかにして頂きたいものです。googleでニュース検索を「駐日大使 靖国」をかけても、米国のシーファー大使(氏は靖国参拝に米国は介入せず、と発言)とシナ共産党政府の大使が、現職の大使としては出てくるのみです。何故、このような重大な事実を、朝日新聞はニュースにしなかったのですか? また、欧米、と書きましたが、米はすでにシーファー氏の発言から除外されますので、ヨーロッパということですな。どこの国なのでしょうか?
しかし、このコラムの書かれた事実は、事実ですけれどね(欧米の駐日大使の発言のソースは取れませんが)、関連する多くの事実を無理やり切り落としている。それって、はっきり言ってジャーナリズムではなくて、詐欺だと思います。保険契約とか賃借契約に、重要なことが書かれていなかったら、それは詐欺でしょう。ジャーナリズムが自論に有利になるように、多くの事実を隠蔽するようになったら、それは間違いなく詐欺でしょう。日本では、詐欺師がジャーナリズムの仮面を被り、国家三権をしのぐ権力を持っている。いやいや、考えようによっては、インターネットがなかったら、日本は恐ろしい社会だったのかも知れませんね。
参考資料)
1)ケビン・ドーク氏の産経新聞への寄稿(拙日記より)
「■[社会] アメリカの一日本学者の見解」
http://d.hatena.ne.jp/sanhao_82/20060527/p1

戦争犯罪というのはベトナム戦争などの例をみても、一方にとっての犯罪が他方にとって英雄的行為になりうる。東条氏らも当時、国家の責任ある立場にあって戦争が必要だとの判断を下し、自分たちが正しいとみなしたことを目指して失敗した、ということだろう。その戦争での一方が悪で他方が善という断定をいま下すことには意味がないし、だれにその資格があるのだろうか。

2)大平首相参拝の事実
「首相を選らぶのは誰か」(産経新聞への櫻井よしこ女史の寄稿。拙日記より)
http://d.hatena.ne.jp/sanhao_82/20060522/p1

歴史を鑑(かがみ)とせよ」と中国は繰り返す。そこで、靖国神社にいわゆる“A級戦犯”が合祀(ごうし)され、大きく報道された昭和五十四(一九七九)年をつぶさに見てみる。
時の首相大平正芳氏は、周知のように、同年春と秋の例大祭、八〇年春の例大祭靖国を参拝した。国内のメディアは合祀と首相の靖国参拝について執拗(しつよう)に報じた。そして、七九年十二月、首相は夫人を伴って訪中した。中国政府はどう対応したか。熱烈大歓迎をしたのだ。十二月七日の「共同新聞発表」には、大平・華国鋒両首脳の会談が「極めて友好的な雰囲気の下に行われた。両国首脳は、これらの会談が日中両国間の平和友好関係をさらに増進する上で大きな貢献をしたことに対し満足の意を表した」とある。

3)マッカーサー元帥の米議会での証言
「■[社会] 戦争を避けるには」(拙日記より)
http://d.hatena.ne.jp/sanhao_82/20050906/p3

Their purpose, therefore, in going to war was largely dictated by security.
(和訳:したがって彼らが戦争に飛び込んでいった動機は、大部分が安全保障(自衛)の必要に迫られてのことだったのです)

4)ブッシュ大統領が何を言ったかについて
超大国宣言をはぐらかされた胡錦濤訪米」(大礒正美の よむ地球きる世界)
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/5562/column/column080.html

今回、中国側は異常に外交儀礼プロトコール)にこだわり、正式に「国賓」として迎えるよう要求した。アメリカ側はその意図を察知し、国賓という用語を使わず、「実務訪問」だと突き放した。
それでも、中国は勝手に「国賓」と表現し、アメリカが注意深く用意した造語「責任ある利害共有者」(responsible stakeholder)から、勝手に「責任ある」を除いて報道した。すでにおなじみの中華思想である。

5)SF講和条約東京裁判自体に反対した国
「地球史探訪:サンフランシスコ講和条約」(国際派日本人養成講座)
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h13/jog206.html

ちなみに、メキシコ代表は次のように東京裁判そのものに同意しない旨の発言を行っている。アルゼンチン代表も同様の発言をしている。[2,c]

われわれは、できることなら、本条項[講和条約第11条]が、連合国の戦争犯罪裁判の結果を正当化しつづけることを避けたかった。あの裁判の結果は、法の諸原則と必ずしも調和せず、特に法なければ罪なく、法なければ罰なしという近代文明の最も重要な原則、世界の全文明諸国の刑法典に採用されている原則と調和しないと、われわれは信ずる。

6)パール判事のこと
「人物探訪: パール博士の戦い」(国際派日本人養成講座)
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h10_2/jog059.html

この度の極東国際軍事裁判東京裁判)の最大の犠牲は『法の真理』である。...勝ったがゆえに正義で、負けたがゆえに罪悪であるというなら、もはやそこには正義も法律も真理もない。力による暴力の優劣だけがすべてを決定する社会に、信頼も平和もあろうはずはない。
今後も世界に戦争は絶えることはないであろう。しかして、そのたびに国際法は弊履のごとく破られるだろう。だが、爾今、国際軍事裁判所は開かれることなく、世界は国際的無法社会に突入する。その責任はニュルンベルグと東京で開いた連合国の国際法を無視した復讐裁判の結果であることをわれわれは忘れてはならない。