台湾はすでに独立済み

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さて、先週、台湾で日本の国会議員にあたる立法委員の選挙があったとのこと。
「台湾立法委員選、最大野党・国民党が圧勝」
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20080112i213.htm

月の台湾総統選の前哨戦となる立法委員(国会議員)選の投開票が12日行われ、対中融和を掲げる最大野党・国民党が定数(113議席)の3分の2を上回る81議席を獲得し、圧勝した。

これを見ると、親中派の国民党が勝ち、台湾の民意は独立志向ではない、というように一見読み取れます。しかし、本当にそうなのかな、と少し穿って見てみようと思いました。
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私が穿ってみると、実は、当面のところ、民進党の役目は終わった、ということではないかと思います。民進党の役目とは何か、というと、「台湾の独立」です。その民進党が掲げた政策は、事実上成し遂げられた。だから、この選挙で民進党は「独立」ではないテーマを標榜すべきでしたが、それをしなかった。つまり、日本において「民主主義を我が手に!」なんていうテーマを掲げて選挙戦をするようなもので、そんなもんすでにあるじゃないか、他の政策はないのか、という反応が上記の選挙結果だったのではないかと思います。
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では、台湾の事実上の独立とはどういうことか。台湾に対して、利益が絡む国と言えば、日米中の3ヶ国でしょう。正直なところ、他の国には利害がない。だから、この3ヶ国との関係によって、台湾の独立が成されているかどうかが決まります。
まず、日米は「台湾の独立を支持しない」というのが公式な見解になっています。しかし、正しく言葉を追加すると「台湾の独立『宣言』を支持しない」なんです。これを追加しないのは、当然、政府間同士の駆け引きのようなものです。つまり、日米両政府が言わんとしていることは、実質独立しているんだし(そもそも両国民のほとんどは、台湾人とシナ大陸人を明確に区別している)、事を荒立てるなということです。アメリカは、中東や北鮮問題で手が回らない。日本は平和憲法国家なので、台中間で戦争になった場合、対応に困る。理由は、少々違いますが、結果としては、「独立宣言」をせずに現状維持がベストということです。
一方、民進党政権が成した一番の外交成果は、シナ共産党政府から「台湾が独立することに対しては、武力行使による阻止も辞さない」という公式発言を引き出したことでしょう。これが、実質的にシナ共産党政府が初めて台湾の独立を認めた発言になったからです。
同じようなことは、かつても言っていましたが、今は社会的な情勢が変わってきている。その影響を的確に読めば、シナ共産党政府にとっては大きな失言だったと思います。
まだ、ソ連が健在だった頃は、独立を志向したり、あるいは友邦から離脱する勢力や国家に対し、その宗主国が制裁の名の下に軍事侵攻することは、ある意味では正当化されていました。しかし、ソ連が崩壊して、その後、東欧に民族自決、民族国家の独立の嵐が吹きます。当然、最初は軍事力に頼った内戦が繰り返されました。そして、ユーゴの内戦の悲惨さが伝えられると、独立は民族の権利であるということになりました。そして、独立するか否かは、基本的に住民投票で行われ、そこに軍事力が介入することは、基本的に許されないことである、ということが国際社会の民主主義の常識になったわけです。
つまり、軍事力を向ける矛先は、敵対する外国、テロ勢力であって、自国民ではない。何故なら、正式に独立するまでは彼らは自国民だからです。
となると、シナ共産党政府の発言は、時代遅れであるということもあるし、また、現代においては、台湾を自分たちの国家とは別の独立した国家である、と認識したと受け取られるわけです。まあ、シナ共産党政府を「大人の政府」などと評価する方々は多いのですが、この点、シナ共産党政府は歴代王朝の爪の垢を煎じて飲むべきでしたね。かつての王朝・皇帝なら「なかなか台湾は統治に苦しんでおりますが、まあ何とかなるでしょう。ご心配なく」程度で済ませたところでしょう。
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もちろん、シナ共産党政府に国際社会、特に民主主義の常識は通じまい、という人もいるでしょう。しかし、シナ共産党政府は、今年、否応なく国際社会の常識を受け入れなければならないのです。
そう、北京五輪です。
北京五輪には、ジャーナリストがこぞってシナ国内に入るわけです。そこで、シナ共産党政府の現状を暴かれる可能性もある。だから、とにかく、特に欧米型の思考は受け入れざるを得ない。また、2010年には万博もある。ということは、2010年までは、どんなことがあってもシナ共産党政府は台湾に手出しができない。つまり、2010年までは、台湾の「独立」は安泰なんです。
また、この二つの超大型国際イベントの後、シナ共産党政府が維持されても、また、経済崩壊などの理由で大陸に混乱が起きても、台湾は安泰です。シナ共産党政府が維持された場合、二つのビッグイベントを成功させた「先進国」として扱われる。つまり、野蛮な独立阻止のための戦争なんかできない国になるわけです。今までは、シナ共産党は常識が違う、と思われ、容認されてきたことができない。また、大陸で政治的な混乱が起きた場合も、強大な共産党政府という脅威がなくなるのだから、これまた台湾の独立は安泰です。今の国民党の中で、本気で「大陸反攻」を考えている人は、わずかな長老だけだと思います。すでに、世界でもトップクラスの経済力を誇る「先進国」の舵取り役として政界に出つつある、国民党の政治家たちはシナ大陸をまとめて運営することが、どれだけ無謀なことかはわかっている。わかってなければ、多分、国民の信を得ないだけでしょう。それは、当の台湾国民が一番知っていることです。
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結局、今回の選挙で分かったのは、台湾は事実上独立を果たした。あとは、台湾の自分自身の国益が大事だ、ということです。民進党が勝っていたら、それはまだ独立が成し得てないと国民が判断したということだったわけですが、今回は国民党が勝った。それは、すでに独立は事実上、成し遂げられているのだから、台湾の国益に適う政策を展開できるのはどっちだ、ということです。今や、日米欧の各国が、シナ大陸にカネを掴みに来ている。それを「反中」でビジネスに支障を及ぼすようでは困る(対日と違って、対台湾にはシナ共産党政府はかなり強硬な手段を取りますから)。それなら、対中穏健派の国民党にしておくか、という選択だったのだろうと思います。
まあ、ある意味では台湾国民は、非常に現実的な選択をしたんだと思いますね。
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