論理的であっても非現実的

本日はこちらの日記で紹介されている後藤田正晴氏のご意見から。
http://plaza.rakuten.co.jp/msk222/diary/200411230000/
かいつまんで紹介すると、都合のいいところだけ取っている、とか言われそうなので、この日記の執筆者の方が引用している部分をすべてコピペさせて頂いた上で、所見を述べてみようかと。
−−−引用開始−−−
憲法改正論議についての見解は。
「権力を立法、行政、司法の三権に分立して、相侵さざる仕組みや運営のやリ方を決めたのが憲法だ。国民の立場に立ち権力行使の勝手を許さない。これが一番の根底にある。そういう意味で時の政権を握った人間が勝手に変えることがあってはならない」
■解釈が限界では。
憲法は安定性が必要だ。しかし、世の中の変化が激しく柔軟な解釈では間に合わないときには改正するべきだ。あまりいいかげんな解釈をすると憲法に対する国民の信頼感がなくなる。」
「日本の先行きが内外ともに混沌としている。焦ってやりだすと国論を二分する事態もあり得る。よほど慎重にやらないといけない。
■どこを変えるか。
「改正する時は、前文から全部やれ。だが、これだけ憲法の恩恵を受けた国民が世界に皆無だ。戦後約六十年、文字通り平和を享受して国民の安全が守りれた。だから、この憲法のいいところは必ず残せ、ということだ。それは国民主権、民主主義、そして平和主義、国際協調主義だ」
■九条はどう変える。
二項(戦争放棄)は変えてはいけない。ただ、二項(戦力不保持と交戦権否認)はちょっと書きすぎている。交戦権の否定は、自然権を否定する面がある。相手が攻めてきた時にどうするのか。当然国民は銃を持って立ち上がる。これは国家の正当防衛権だから交戦権は自然権として持ってしかるべきものだ。従って二項は変えていい。その代わり、日本の領域外では武力行使は絶対に行わない、これを一項に入れる。自衛隊をきちんと国の機関として置く。国際貢献は大いにやるべし。
自衛隊イラク派遣と憲法の関係は。
「派遣は間遣いだ。武力行使はしない、戦闘地域には入らないと言っているが、自衛隊機が米軍の兵士をクウェートからイラクの前線へ輸送することが武力行使と一体にならないなんて(解釈は)どこから出てくるんだ。牽強(けんきょう)付会の議論だ。サマワがどうして戦闘地域でないのか。イラク全土が戦闘地域だ。そんなところにいつまでも自衛隊を置くのは論理の矛盾だ。小泉(純一郎)君は、戦争を知らない。まったく知識がない」
■派遣延長すべきか。
「非常に悩ましいところだ。来年一月の選挙が終われば正式な政府ができる。本当はそれから派遣すべきだ。だとすれば、期限が来たらやはり引き揚げるというのが一つの手かなとも思う。
今の自衛隊は何もやっていない。水の供給といっても、キャンプの中でイラクの民衆が取りに来て分けているだけだ。だから本当は(活動内容を)検証しないといけない。どんな成果をあげたのか具体的に説明してもらわないといけない」
■現状への懸念は。
「戦争はいったん決めると、とことん行くまでやってしまう。太平洋戦争開戦時、僕は陸軍の下級将校だったが、無理な戦争を始めたなと思った。サイパンが落ちたときに手を上げるべきだったができず、沖縄まで行った。しかし有効な反撃ができない。毎日毎日前線が下がってくる。こんな戦を何でやるんだと本当に思ったな。それでもやめられないんだ。
日中戦争もそう。撤兵の判断ができなかった。イラクもそうなるよ。今度続いて行ったら引き揚げの理由がなくなる。(大義名分がなく)『無名の師』といわれたシベリア出兵の失敗を学ぶべきだ」
集団的自衛権の行使をどう考えるか。
「駄目です。こんなのをやったらアメリカに地球の裏側まで連れて行かれる」
■米軍再編の対応は。
「国政の最大課題だが、アメリカがアフリカの東海岸、中東までにらんで指示をする司令部を日本に持ってくるという。しかし、日米安保条約は極東地域が限界だ。まったく間違っている」
「一九九六年の橋本龍太郎首相・クリントン大統領の会談で安保条約における日米協力の範囲をアジア・太平洋に広げてしまった。推進したのは外務省だ。日本は周辺事態を決められない。世界の軍事情勢を握っている米国が決める。日本はついて行かざるを得ない」
憲法の前文、九条以外で見直すべき点は。
「公共の福祉の制限規定があまりにラフだ。権力者によって公共の福祉の名の下に活動を制限される。もう少し具体的に書かないと言論の自由まで抑制される恐れがあリ得る」
−−−引用終了−−−
まず、感想から言うと、この日記の著者さんが書いてるようには「明確」ではあるかも知れませんね。ただ、論理的ではあるが全然現実的じゃない。
まず、引用第1項目。憲法改正論議についての見解を聞かれているのに、全然答えになってません。憲法には改正条項を読めば、時の権力者の一存で憲法が書き換えられるようにはなっておりませんが。
次に第3項目。憲法9条以外の恩恵は受けたと思います。憲法9条によって、日本の平和は果たして守られたのか。日本国憲法は日本国民のみを制約するルールです。日本には平和憲法があるから、日本と戦争を起こすまい、と思っていた国があるとは思えません。その実例があれば、ご紹介賜りたいですな。
第4項目。ただ「相手が攻めてきた時にどうするのか。当然国民は銃を持って立ち上がる」という状況って「戦争」っていうんじゃないんですかね。それから「日本の領域外では武力行使は絶対に行わない、これを一項に入れる。自衛隊をきちんと国の機関として置く。国際貢献は大いにやるべし」って矛盾してませんかね。自衛隊は軍隊だから、国際貢献で一番上手にできるのが「同盟軍」を作ることだと思いますがね。この言葉を真に受けてしまうと、例えば台湾と中国が戦争を始めたとき、日本は民主主義体制を守るために台湾を助けることができないってことです。そして、世界中の日本以外の国がすべて非民主国家になって、日本に攻めてきたときになってからやっと、日本は武力行使できることになりますけど。
第5項目。後藤田氏はイラク特措法に書かれた戦闘の定義を知らないのかな? まあ、それは大した問題じゃない。これから世界各地で起こり得る戦争は、国と国の戦い以外に、こうした非合法の武装組織(一般的に武装勢力とかテロリストとかいう)との戦いになりますわな。そのときに、どう対応していくのか。民主主義体制を脅かすこうした武装組織から、民主主義をどうすれば守れるのか。その問題に対して、具体的な方策を示して欲しいものです。
第6項目。第5項目であんなこと言ってんのに「悩ましい」だって。訳わかんない。残りは第5項目の内容と沿っているので、論理的に矛盾はしてませんね。「どんな成果をあげたのか具体的に説明してもらわないといけない」って、先週の土曜だったか日曜だったか、第1次隊の隊長だった方がテレビで説明されてましたよ。ご覧になってない? 気にしてるんなら、そういう番組をしっかり見ておくべきでは? ならば、こちらを(http://www.tkfd.or.jp/publication/reserch/chikara10_11.shtml)。
第7項目。「撤兵の判断ができなかった」理由は何なんですかね。それを考えるのは政治家としての勤めだったんじゃないの? それとも未だに分からないのなら、他人がお書きになった本でもお読みになればよろしい。他の国は、国が滅びる前に戦争を(上手か下手か別として)止めてるものなんです。なぜ日本は滅びるまで戦争したのかを考えるのは大事なこと。私は、日本人特有の「縁起の悪いことは言わない」体質が、日本を滅ぼしたと考えています。受験生に「落ちる」と言わないのは、現代でも続く「縁起の悪いことを言わない」国民性だからです。後藤田氏だって「無理な戦争を始めた」と思いつつも「これは無茶ですね」とは言わなかったわけでしょ。そんなことを言うと「縁起でもないことを」と言われるのがオチだからでしょう。その日本人の国民性に軍部が乗っかったんです。逆に縁起のいいことを言うのも日本人の国民性で、それが戦後の「平和主義」。土丼たか子とかいう人が「戦争の準備をすると戦争が来る。平和の準備をすると平和が来る」なんて言ってましたが、これがまさに「縁起のいいこと」を叫ぶ「祝詞政治」。戦前も、日本は勝つ、と言い続ける「祝詞政治」。どっちも亡国の道だと思いますがね。
第8項目。アメリカに引きずられないようにする方策を考えればよろしい。自由民主義体制を守るためなら、北京政府の覇権主義と戦わなくちゃならないし、テロリズムとも戦わなくちゃならない。そのためには、集団的自衛権は必要。集団的自衛権を認めない、ということは、結局、単独平和主義であるということですがね。スイスのような武装中立国家を目指しますか? それも一つの手ではあるけれど、コストがかかって私は現実的ではないと思います。
第9項目。述べていることは第8項目に沿っていて、論理的には矛盾してません。ここでは後藤田氏の意見は出てきてないのでどうでもよし。
第10項目。今ほど公共の福祉が制限されている事態もないと思いますよ。言論の自由を盾にした偏向報道、プライバシー侵害の記事がまかり通っているんですけどね。私は逆に、自由を謳歌する対価としての義務をしっかり書いた方がいいんじゃないのかと思う次第です。
ってなわけで、論理的にはそれほど矛盾してないけど、非常に非現実的であるなあというのが感想です。ロジックが正しくても現実に即してないと使い物になりませんわ。そんな憲法、いりませんよ、オレは。