ツール・ド・フランス観戦記

ランス・アームストロングの7連覇で幕を閉じたツール・ド・フランス。私の素人目観戦記にお付き合い頂ければ幸いかと。
最強だった男・アームストロング
史上最強かどうかは何とも言えません。時代もずいぶん変わりましたしね。しかし、7連覇は大偉業。今後、並ぶ選手は出てこないのではないかと思います。と、インデュラインが6連覇を逃したときも「6連覇する選手は出ない」と思ったんですけどね。
ランスの最大の特長は、自らをツール・ド・フランスに勝つために作り上げた、という点です。ランスは癌にかかる前は、気性が荒く、大逃げをかましたり、ゴール前で荒々しいスプリントをするような選手で、山岳は全くダメな選手だった(らしい。つまり、ツールに勝ち始める前のアームストロングは、私はほとんど知らない)。癌でガリガリになったランスは、そこからツールだけを目標に絞った体作りをするようになったと思うんですね。
というのは、グランツールと呼ばれる、ツール、ジロ、ブエルタのうち、ツールだけはITTの比重が非常に大きな大会です。坂を上る選手こそ、という雰囲気の漂うジロやブエルタとはかなり違います。そこで、まずランスはITTを強化する。それでいて、登坂力をつけるために体重を増やさなかった。これは癌で体重が激減したからこそ、できたことと言えます。その結果、クライマーよりも山岳でも強く、クロノマンよりもITTにも強い、という完全にツール向きの選手として復活した。
今大会も、ランスの強さは際立ちました。二つのITTでライバルにきちんとタイム差を付け、山岳ではライバルを蹴落とす。ライバルが抵抗しても、ぴったりマークしてタイム差を付けられない。ライバルを蹴落としたのは、第10ステージのクールシュベル。その後の山岳では、ライバルの動きを冷静に見極め、タイムを失わなかった。まさに王者にふさわしい走りだったと思います。
こうして見ると、一番ハラハラしたのは2003年、5連覇がかかった年。あのときは本当に危なかった。リュズ・アルディダンでの落車がなかったら、負けてたかも知れません。また、15ステージになって突然熱波がおさまって、暑さでバテバテだったランスが復活できたとも言えそうです。
来年からランスをツールで見ることができないのは、すごく寂しい。7連覇を祝福しつつ、どことなく寂寥感が漂っています。
作戦ミスだったバッソCSC
CSCのビャルネ・リース監督は、1996年の総合優勝。インデュラインの6連覇を阻止した選手、とされていますが、実は私にはすごく印象が薄い(髪の毛も薄かった)。で、翌年、テレコム(現:TMO)のエースをツール中にウルリッヒに奪われたという現役時代(ウルリッヒの唯一の優勝はその1997)。その経験からか、リース監督は結構策士だったりします。しかし、リース監督の策は、今大会では空回りだったように思います。
まず、TTTが重要な位置にあると見て、TTを強化。バッソはジロのITTに勝つほど成長した(ように見えた)し、フォイクトザブリスキーなど、TT巧者をチームに配し、TTTでの必勝を狙いました。
ところが、そのTTTで機関車・ザブリスキーが落車。狙ったはずの優勝は、2秒差でDSCに奪われてしまいました。
山岳に入ってからは、サストレ以外に有力なアシストがなく、クライマー中心のDSCを崩せませんでした。結局、アシストを使い切って、ランスとの一騎討ちに持っていくところまでが限界。ランスに勝つためには、DSCがアシストを使い切った後に、1枚か2枚味方にアシストが残っている状態じゃないと無理だったはずですから。
また、山岳でのバッソの走りには大いに疑問でした。特に第16ステージ、最後の山頂ゴール(しかも超級)では、乾坤一擲のアタックをしなければ、ランスとの2:46差は覆せなかったのに、ほとんどアクションがありませんでした。もちろん、ポディウム狙いだったのだと思いますが、打倒ランス一番手の彼がポディウム狙いだったのは、少々残念でした。
意味不明なビノクロフのアタックに沈んだウルリッヒ
とは言い過ぎかも知れませんが、ウルリッヒにとってビノクロフはいいアシストではなかったような気がします。中継の解説者はこぞって、ビノのアタックをウルリッヒへの援護射撃のように言っていましたが、私はそうは見ていません。ビノは、ステージ優勝狙いの捨て身のアタックだっただけです。クールシュベルでランスから決定的に遅れたビノは、本来ならウルリッヒのアシストに徹するべきでした。しかし、集団のペースを上げるわけでもない、派手なアタックによって自らを消耗し、ランスとの厳しい戦いに置かれたウルリッヒには、全くサポート出来ずじまいでした。で、ビノクロフにはツール中盤から来年の移籍話が出ているようですが、それも已む無し、という感じでした。
で、ウルリッヒは、毎年何か調整で事故したり、ミスしたり。運が悪い、というよりも、ライバルであるランスに比べると、どうも周到性が足りません。もう言い訳はできません。来年はポディウムの頂点に立たなければ。でも立ったら立ったで、ランスに勝てなかった男、として永遠に語り継がれるんでしょうね。アンクティルとプリドールの関係みたいになるんだろうか。
期待の新星 バルベルデ鮮烈デビュー
以上、やや不甲斐なかったランスのライバルですが、イレス・バレアルスのバルベルデは素晴らしいパフォーマンスでした。今年のツールで、本当にランスに勝てたのは、バルベルデだけです。クールシュベルの登りで、一人だけちぎれず、最後のスプリントを制した勝利は、鮮烈でした。バルベルデはTTTで膝を痛めており、翌日のステージでリタイアになってしまいましたが、そこでリタイアがなければ、実はランスの山岳ステージはもっと厳しいものになっていたような気がします。ランスも「バルベルデは自転車界の未来そのものだ」と絶賛しています。今年のブエルタでは、間違いなく大本命。かつ、彼はステージレースだけでなくワンデーにも強いので、世界選手権も本命。そして、来年のツールに勝つのは、多分バルベルデだと思います。まだITTが弱いのですが、これを修正できるほど若いし(まだ25歳)、期待できる存在だと思います。