二大政党制など存在しない

世は慶事である。ハンケチ王子が登場したら、今度は本当の王子様が誕生した(不謹慎な言い方で申し訳ありません)。少し遡ると、共産党政府が首脳会談を拒み、大陸との関係が危うい、とか言っていたのに、あの小泉が首相になってからも、大陸との貿易は堅調に推移していたらしい。これも慶事であろう。
しかし、慶事を好まぬ方もおられよう。特に、立法府で野党の立場にいる方々は、慶事を歯軋りしてみていることであろうと思う。慶事が続くと、与党を攻められぬ。
未だに民主党政権交代と言う。来年には参院選挙があるが、これをきっかけに政権交代を、と言っている。まずは戦略がなっていない。今、自公の与党は衆院で2/3の議席を持っている。参院を無視しても、議会運営が可能な議席を持っている。そこで、参院選政権交代を!と叫ぶ野党がいる。与党としては、絶対に衆院を解散しないに決まっている。度胸が無いからしないだろう、という評論をしていた爺様がいた。しかし、これだけの議席を持っていて、しかも大した失政も無いのに総選挙をするというのは、度胸も何もない。ただの阿呆と思われる。今、自民党の総裁選挙に出ている三氏を見ると、そんなことをやるほどオツムが悪いとは思えない。常識が通用する人の方が、私は安心して見ていられる。
さて、二大政党制である。つまり、自民党民主党が政権を交代するのが望ましい。特に民主党とマスコミはそう言う。イギリスやアメリカのように、とも言う。しかし、そういう人たちは不勉強も甚だしいと思う。
アメリカは、制度、つまりルール上、共和党民主党以外の第3の政党を作ることが、事実上できない仕組になっているのである。今はインターネットという便利なモノがあるから、Googleなどで調べればよい。これは制度としての、二大政党制に近い。しかし、アメリカの言論だって、共和・民主に二分できるわけではない。また、そもそも共和制民主主義の国、という建前は両党に共通の認識があり、また、これがアメリカが世界で嫌われたり、あるいは迷惑をかけたりする主因ではあるが、アメリカが世界のリーダーであるべきだ、と考えているのも、アメリカ人の多くにとって共通の認識である。あとは、その手法が二つある、というだけのことである。
一方、二大政党制の元祖とされてきたイギリスはどうか。イギリスは、すでに得票率の話では、大政党が3つある。凡そであるが、労働党が4割、保守党が3割、そして自民党が2.5割。そう聞いたことがある。ただ、イギリスは小選挙区オンリーの総選挙をする。だから、4割の得票率の労働党が下院で6割以上の議席を持つ。
そもそも、政党は国民の利害を政治的に主張するために存在する。アメリカで共和、民主の二党以外認めない理由は、私にはよくわからない。ただ、アメリカはイギリスの植民地から独立した国である。イギリス王権を認めることが、そのまま独立の否定になった時期が歴史的にある。それが影響していると私は思う。イギリスはもっと分かりやすい。イギリスは、かつては労働者と資産階層との二極に国の意見が分かれていただけのことである。だから、政党が二つで済んだのである。
ところが、イギリスでは労働党が、完全に労働組合の言うなりになった。イギリスの労働組合は、日本のような左翼的イデオロギーに固まってはいないが、利権獲得のためにはなりふり構わない政策を打ち出した。労働組合に入っていない者には、一切の恩恵を与えない。そういう政策を打ち出したのである。無論、そんなことをしていては、非労組の支持は得られない。だから、労働党は長年、保守党に政権を奪われ続けていたのである。ブレア氏が出てくる辺りから、労働党は「脱労組」に転換し、組合ではなく「普通のイギリス国民」を見た政権公約を掲げ、以来、長期政権となっている。
つまり、イギリスは資産階層と労働者、という二極構造ではなくなったということでもある。つまり、多極化した。だから自由民主党という政党が25%以上の支持を集めているのである。ただ、選挙制度として、小選挙区制を取るので、結果として25%の得票が死票になっているだけのことである。
場末のサラリーマンが知っている程度のことを、民主党の幹部は理解できないらしい。だから、彼らに政権が回ってこないのである。
民主党は、その主力な組織として、労働組合、いわゆる連合を持つ。連合はでかい面をしているが、実は全労働者の20%以下しか連合傘下には存在していない。そのくせ、懲戒以外で解雇される恐れの無い、官公労は傘下に入っている。どう見ても、労働者の代表というには程遠いと言える。つまり、民主党は「労働党」ではないということの証である。さらに、他にどういう勢力の受け皿になっているか、というと、辛うじて旧社会党、つまり左翼勢力の残党ということになろう。それを、かつて自民党に在籍した小沢、菅、鳩山という面々で薄皮を作っているだけのことである。一体、どういう人たちの利害を代弁しているのか。辛うじていえるのは「何が何でも自民党が嫌い」という人たちの集合であることは理解できる。
では、自民党とは何か。自民党とは、本来、小勢力の寄り合い所帯なのである。小勢力が集まって、利害を調整する機関なのである。その盟主が、自民党総裁であり執行部なのである。この構造は何のことはない、江戸幕府である。そもそも日本型の権力機構というのは、利害調整機関である。これは、源頼朝からの伝統である。江戸幕府をよく「中央集権体制」と学校では教えるらしいが、江戸幕府は全く中央集権体制ではない。野党勢力である外様大名に対し、小勢力である譜代大名が徳川家という大義名分によって、利害調整をしてきたのである。そういう幕府でも、長年経れば制度疲労が起きる。それを、たまに将軍が直々にが作り直す。それが「暴れん坊将軍」であろう。将軍のご親政である。自民党総裁が、今まで「親政」したことなど、ほとんどなかった。特に中曽根氏以来、完全に神輿、つまり大義名分になっていたのである。橋本氏は、「親政」をしようとして、周囲にいわば「押込め」を喰らった。要するに、吉宗の登場には早かっただけである。時を経て、小泉氏は「親政」に成功した。その小泉氏も、実は「親政」を訴えて3度目の正直だった。
次の政権、すなわち次の自民党総裁に課せられたテーマは、「親政」をいかに終わらせるか、なのである。「親政」という形は、実はあまり日本的ではない。従来の日本の制度が疲労して、どうしようもなくなったときに、「親政」が行われる。頼朝しかり、信長しかり、家康しかり。江戸幕府で言えば、親政を行ったのは吉宗と慶喜か。
小泉氏のやったことは、自民党をぶっ壊したとか、そういうことではない。利害調整機関が複雑になりすぎたために、一度リセットしただけのことである。さらに、「親政」をした小泉氏は、実は外交だけ親政を行い、後のことは担当の大臣に任せた。担当の大臣は、自党内の部会に対し「多数決」で審議を行った。新しい利害の調整場所は、「多数決」を行う民主的な部会というところになったのである。これが小泉氏が引いた新しいレールである。それまで「派閥」だったところが「部会」に移り、「全会一致」「一任取り付け」が「多数決」に変わったのである。自己の利害を主張するには、明快なロジックが必要になっただけのことであろう。次期総裁・首相が、小泉氏のような「親政」を行おうとすると、私は短命に終わると見る。
もちろん、民主党もそこに気が付かなければ、ひたすら敗れるのみである。反自民反小泉(安倍?)を言っているだけでは、誰の利害も代表していない。そういう政党に支持者が集まらない(それでも40%は集めていることは脅威的ではあるが)のは、自明の理と思われる。
それならば、選挙で敗れる前に民主党は解体した方がいい。誰の利害を主張するのか、そういう視点でもう一度、見直した方がいい。リーダーは明確なビジョンを示せ。そんなことは、実は期待していない。誰の、どういう利害を主張するのか。そこが最初である。それならば、政党はたくさんあってしかるべきである。日本のように、多様な意見が許されている国で、政治的な選択肢が二つしかない、ということはあり得ない。だから、自民党なのであろう。自民党は、実は小政党の寄り合い所帯なのである。彼らの歴史を見れば、離合集散の歴史である。それは、日本自体の歴史でもある。ただ、小泉氏が引いたレールは、これまでのようにクローズされた場でコソコソやってはいけない、ということである。後ろめたくなければ、堂々としろ。それだけのことである。
それに気が付くまでは、民主党は政権に就けないだろうし、また気が付けば、民主党はなくなってしまう。それがわかっていて、党の体面を取り繕っているのであれば、これも立派な詐欺である。