マスターズ観戦記

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いつかは生で見てみたいトーナメント。それがマスターズです。一度で良いから、マスターズと全英オープンは観戦してみたいものです。ただね、全英OPの開催コースはプレーしてみたいと思うのですが、オーガスタナショナルだけはプレーしないでおきたいと思うんですよね。というのも、オーガスタナショナルは脳内では多分、一番多くラウンドしたコースなんです。そこでは、僕でも66とか67でラウンドできてるんです。でも、現実にはそんなことあり得ない。だから、ラウンドしない。オーガスタナショナルは、僕の脳内では、世界のトッププレーヤと互角に戦えるフィールドなんですよ。
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それはさておき、今年のマスターズは実にマスターズらしい大会だったと思います。好調に見えた選手が突如ボギーの連鎖にはまってしまう恐ろしさ。わずか1Yの前後左右でピンに寄らないショット。僕は、マスターズはゴルフ界における「ダービー」だと思っている。ダービーは、洋の東西問わず、強い馬ではなく、運の良い馬が勝つ、と言われます。マスターズは、運の一番良い選手が勝つ。そういう大会だと思うのですね。
コースは、全英OPが開催されるリンクスコースのような不規則なアンジュレーションがあるわけではない。グリーンは起伏が大きいけれど、改修は少なく、そのアンジュレーションはマスターズに繰り返し参加している選手はみな知っているという点では、フェアです。また、全米OPのようなヘビーラフとサディスティックなセッティングをしているわけではない。どちらかと言えば、ショットの正確性をフェアに競えるコースセッティングなんです。だからこそ、運の良い選手が勝つ大会なのかも知れない。
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今回、優勝したトレバー・イメルマンは、実力としてもマスターズに勝って申し分ない選手です。しかし、3日目の15番の3打目が奇跡としか言いようがない位置に止まったり、最終日の9番のようにカップをなめるか、と思ったパットが入った。パットが入らなかったタイガーから見れば、運がいいだけじゃないか、と思っても仕方ないくらい、イメルマンは運が良かったと思います。
でも、その運をきっちりと優勝に結びつけた、その実力は流石です。南アと言えば、エルスやグーセンが有名ですが、今回で完全に世代代わりした感がありますね。もう一人、ロングヒッターのロリー・サバティーニも控えている。きっと、サバティーニはイメルマンの優勝に刺激されることと思います。
イメルマンは2006年のウェスタンOPでタイガーと優勝争いをして、勝っている選手です。ミケルソンやエルスが、タイガーと優勝争いをするとからっきしダメなのとは好対照。願わくは、タイガーキラーになって欲しいところです。飛距離もあるし、技術も申し分ない。特に、決勝ラウンドの13番で見せた、アプローチの技術は世界でもトップクラス。同じウェッジを使って、高低、スピン量をコントロールする技術を持っている。プレーも、さすがに最終日は若干ナーバスになってややスロー気味でしたが、3日目まではキビキビとしたプレーで好感が持てました。
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個人的に高評価をしたいのは、決勝ラウンドでイメルマンのパートナーになった、ブラント・スネデカー。彼は(イメルマンもそうですが)、全米パブリックリンクスの優勝者(日本で言うところのパブ戦優勝者)。アマチュア時代の実績もしっかりしている選手なんですね。さすがはアメリカ、という気がします。スネデカーの何がいいかと言うと、プレーが早い。パットもショットも素振りを少々、構えたと思ったらもう打っている。最近、タイガーによる影響だと思いますが、とにかく入念な素振り、イメージ出し。そして、構えてから間を取る選手が増えている中、スネデカーのプレーは見ていて清々しかったです。プレーが早かったと言えば、トム・ワトソンは早かった。画面が切り替わったときには、もうフィニッシュだったりしたものです。最近は、そういうプレーヤが減っているので、そういう意味でもスネデカーのプレーは賞賛に値すると思います。
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さて、タイガーですが、厳しい言い方ですが、とてもゴルフのチャンピオンにはふさわしくない振る舞いが多すぎました。だから、オーガスタの女神は、彼に勝利を与えなかったのだと思います。自分では完璧と思ったショットが、わずかの風に流されたのか、ピンに絡まない。すると、彼は露骨に不満を表情に表し、クラブを振り回したり、帽子を投げ捨てる。苛立ちがプレーに出ているのかも知れませんが、長いマスターズ観戦暦の中、ワトソンやニクラウスのこういう表情を見たことは、一度もない。しかし、タイガーにはそういうシーンがあまりに目立つ。まだ、彼はニクラウスやワトソンに匹敵するような真のチャンピオンではないと私は思います。
中には彼のガッツポーズを見たいと言う人も多いでしょう。彼の「人間らしい」リアクションが好きだ、という人もいるでしょう。でもね、ゴルフという競技の精神は、静謐の中に宿り、闘志を内に秘めた者を称え、相手を威嚇するようなアクションや、まるで自分だけに不運が訪れたごときの派手な嘆きをするプレーを軽蔑するものだと思います。まだ、タイガーには達すべき境地があると思う。タイガーは強い。でも、タイガーは達人ではないと思う。彼には、その資格はある。だから、そこを目指して欲しいと思います。
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最後に日本人プレーヤ。今田竜二が出場していたら、もう少しマシだったかも知れません。日本ツアーの成績が世界ランキングで過剰に評価されていることを示す格好の題材になってしまいました。まあ、片山、谷口レベルの飛距離では、世界に通用しませんよね。だいたい、雑誌を見ると、片山は300Y以上飛ばすことになってるし、実際、ツアーの中継でも300Y越えしてるシーンが多いんだけど、それならイメルマンと飛距離同じくらいってことですか? 何かがおかしいよね。コースのヤーデージが日本ツアーはものすごくいい加減なんじゃないかと疑ってしまいます。
最終日の18番のイメルマンのセカンドショット。深いディボット跡にボールがあった。解説の中嶋常幸は「ボールを右足よりにおいて、低い弾道で打つしかない」と言っていたけど、イメルマンは何も細工せず、クリーンのボールを捕らえ、普通のショットとほぼ同じ弾道でグリーンを捉えてきた。世界のトップのゴルフは、すでに日本のトップレベルが考えている遥か先に行っていることを象徴するシーンだったと思います。
すでに、三十路を越えた二人に要求するのは酷ですが、かといって石川選手も含めて、日本の若手に期待できるとも思えない(石川くんはプロ野球の始球式で投げていたフォームに、ちょっと失望してるところ。あのミケルソン、実は右投げで135km/hの速球を投げるほどの運動神経の持ち主なんですよね)。まあ、今の幼稚園児が大人になる頃まで待たなくちゃならんのですかねぇ。
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