先週のGD誌掲載ネタから、江連忠を批評する

江連忠と言えば、今、ゴルフ界にときめく「カリスマコーチ」です。現在、伊沢利光、福島晃子らのコーチですが、彼の指導を受けている中で最も好成績を収めているのは、アマチュアで18歳の諸見里しのぶでしょうか。かつては、片山晋呉のコーチでもあり、その時期に刊行された著書は私も持っておりますし、またNHK教育でゴルフレッスン番組をしていたこともあり、その際のテキストも持っております。しかし、ダメなものはダメ、という感じがあります。その理由を、先週のGD誌を中心に述べていきたく。
先週のGD誌は、世界ランキング制が始まって以降のランキング1位になった選手のスイングを江連が解説する、というものでした。その中で、江連が少なくともプロ選手を教えるコーチとして不適格である、ということがはっきりとわかる部分がありました。それは、グレッグ・ノーマンのスイング解説。ノーマンのスイングの外見上の特徴は、インパクトからフォローにかけて右足が左足の踵に近寄っていくところ。実は、この動きには重大な意味があるし、野球に詳しい人ならすぐに理解できることなんですが、ゴルフしか知らない江連には理解できていなかった。江連は次のようにコメントしています。
「これ(右足の動き)ばかりは意味がわからない。恐らく相手を威嚇するためにやっていたんじゃないかと思います(笑)」
バカとしか言いようがありません。少なくとも、私もゴルファーの端くれですが、あの動きをされたところで怖くも何ともないんですけれどね。まあ、ここは仕方ない。江連は若い頃、ノーマンを見て怖いと思ったんでしょう。それよりも「意味がわからない」というのが、ゴルフの教え手としての最大の欠陥なのです。
通常、ゴルフで世界のトップレベルになる選手は、小さい頃からゴルフを始めます。タイガーのように2歳そこそこは早過ぎると思いますが、多くは小学校低学年くらいから始めるでしょう。しかし、ノーマンは違った。ノーマンは18歳(年齢には多少違いがあるかもしれません)くらいからゴルフを始めているはずです。つまり、他の選手よりもかなり遅く始めています。子供にゴルフを教えると、知らず知らずのうちにフックを打つようになります。子供はクラブの重さを上手に使って打つ。筋力がないから、合理的に体を動かして行くので遠くに飛ばそうと思うと、自然に体を開かずに腕を振る動きをするようになります。だから、プロゴルファーの多くはフック(ドロー)を打つのに苦労しないのです。ところが我々のように(私は実は小3からゴルフを始めたんですが)大人は、スライスに悩みます。これは筋力があるために、ついついクラブを「体の回転」で振ってしまうのです。これは多くの見方と違うと思われるでしょう。通常は、筋力がないから「体の回転」と思うでしょう。これは間違い。腕を振るのに、腕の筋肉は必要ですか? 自分で腕をブラブラ振ってみて下さい。腕には力が入っていないでしょう。力が入っているのは、肩と背中ではありませんか? 子供は腕の筋力がないので、肩と背中の筋肉を使って腕をぶらーんと振る。大人は腕に力を入れて、体を回転させて打つ。体を回転させて打つから、体が開いてスライスを打ってしまうわけです。ノーマンは大人になってからゴルフを始めたので、スライスに悩んであろうことは簡単に想像が付きます。
スライスさせないためにはどうすればいいか。私の結論は、体を回転させず(あるいは踏ん張って)インパクトでアドレスにできるだけ近い状態でインパクトすること。体の正面でインパクトできれば、スライスすることはない。スライスを打ちたくなければ、フックを打てば良いわけで、そのためにはインパクトでクローズの状態になればいいことになります。そこでノーマンが取った方法が「右足を回転方向とは逆向きに動かす」、つまり結果的に「右足が左足の踵に近寄る」ということなのです。これ、野球をやる、よく見る人なら理解できるはずです。ホームランを打った後、バッターのスタンスがクローズになっているでしょう。あれと同じことなのです。クローズ気味に体が残っているので、ボールを打ち返す力があるということなのです。特に野球で体が開くとどうなるか。フォークやスライダーにタイミングを惑わされて「泳ぐ」という状態になるし、ストレートに対しては、完璧に捉えたつもりがレフト線(左打者ならライト線)から大きく切れる大ファールになるだけのことです。野球も前方90度以内の角度に打球を運ばなければいけないのですから(しかも150km/hで運動している球を打つ)、方向性はかなり高く要求されていると言ってよいし、だからこそ体を開いては打てないのです。たまに、大した実績のない打者がホームランを打って「体の回転で上手く打てました」とコメントした後、すぐに不調になったり、頑張ってその年は成績が良くても翌年に続かないのに対応しています(中日で二冠王になった後、泣かず飛ばずになった山崎、好調と不調を2年周期で繰り返す仁志が近年の代表例)。つまり、野球をそこそこ知っている人間から見ると、ノーマンの足使いは「インパクトで体を開かないため」の動きであり、他のプレーヤに対する「威嚇」でも何でもないことはすぐにわかる。江連にはわからない。何故か。それは江連がゴルフの専門家であり、ゴルフ以外を見ていないからです。
今回は江連を批判しましたが、はっきり言うと、ゴルフのレッスンプロというのは、こういう連中がほとんどです。ひどいのになると、小さい頃からゴルフしかしたことがなく、他のスポーツを全く知らない。ゴルフも運動ですから、本質的な運動原理は他のスポーツと共通している部分がほとんどのはずですが、その共通原理を教えられている人はほとんどいない。ひどいのになると「ハンマー投げは回転力(回転力とはどういうことなのか、意味不明)で投げる。ゴルフもハンマー投げと同じく回転力だ」と言って、体の回転で打て、などと言ってたりするんですが、これはおかしい。ハンマー投げでは、ハンマーは常に体の正面にあります。回転を生む源は、足の動きです。足で自ら全体が回って、ハンマーの速度を上げているだけ。その場から足を離せないゴルフと共通点を見出す場所が間違っているのです。ハンマー投げから学ぶ点は、足捌きによって常にハンマーを体の正面に維持していることです。ゴルフに置き換えると、足捌き(ゴルフではフットワークとかニーアクションと言いますが)によってクラブを体の正面から外さない、すなわち体を開かないということなんです。回転力なんかは学ぶ点ではない(そもそもハンマー投げでも回転力は存在しない)。
となると、ゴルフ専門のレッスンプロは、恐らく他のスポーツをやったことがあるであろう、アマチュアにとってはあまり役に立たないということです。実際、他のスポーツ出身のレッスンプロは、スキーの運動原理をゴルフに適用している若林貞男と元プロ野球選手の後藤修くらいではないでしょうか。で、この二人は私の一押しでもあります。amazon.co.jpを調べれば二人の著書は(少ないけど)出てきますので、是非、ご一読下さい。